ケベック
この日は一日予定がないとわかっていたので、少し足を伸ばすことにした。

バスに揺られて3時間ほど行くと、ケベックという古い建築物が残る町がある。「北米の至宝」とまでガイドブックにうたわれたその町並みは確かに美しい。点在する教会。古い建築に違和感なくとけこんでいる店の数々。中でも日本に例えるなら函館の五稜郭のような場所があり、そこが戦場であったのだと言うことを今に伝えている。僕は街を一望できるケベックの五稜郭に登ってみた。百段を超える階段を行きながら振り返ると、まるでコートダジュールかと見まがうような、美しい海辺の風景が広がっている。永遠と続く木製のテラス。白いテントの帆が風に映えて、とても美しい。やっとただりついた丘の上では、軍隊が特別にレセプションをするのを見せてくれるという。入場券代わりの緑色のシールを左肩に張って中に入る。中には緑の芝生が広がっていて、イギリスの衛兵のような格好をした軍人達が整列している。中央に山羊がいる。しばらくすると、吹奏楽による演奏が始まり、お歴々が立ち上がって拍手をする。軍人の整列。海辺にとどろく大砲の音。何度も何度もこだまする。進行が遅くてつまらないので早々に引き上げる。そのまま、市内の観光を続ける。歩いていると時間はあっという間に過ぎる。日が落ちた頃にターミナルに戻る。バスの待ち時間に、駅の中にあるバーに入って、その日のことを考える。カナダビールは大瓶が700ミリリットル以上もある。それを飲みながら、見たことのない世界を見ることが、どんなに人の意識を覚醒させるのかという事について考えたり、一日の風景を思い出したりする。朝はがらがらで貸し切り状態だったバスは、乗り込んでみると8割方席が埋まっている。それでもバスの中程に空席を見つけて、身体をシートに滑り込ませる。ビールによる眠気が、バスの振動を伴って、自分の意識を遠くへと運び去ろうとする。バスはほぼ、曲がることなく一直線に道を進んでゆく。運転手は足が少し不自由な白髪の白人だった。彼の足がアクセルを踏み込む姿を想像する。バスはそんなことを微塵も感じさせないくらい、スムーズに走り続けていく。おそらく、乗客全員の眠りを乗せて。
[PR]
by nakadachi2 | 2005-09-25 19:02 | TACT/FEST